北海道ひとり旅①太平洋フェリーに乗っていざ出発

2022年10月、北海道へひとり旅に行ってきた。

失業手当ニートを経て真のニートへ進化していた私。

収入はないが時間はある、ということでPCに張り付つきあらゆるキャンペーンや割引を駆使して計画を練ること数日。ついに名古屋からの交通費含め10日間約8万という破格のプラン作成に成功した。

フェリーも飛行機も電車もバスもレンタカーも全部使う。乗れるもの全部に乗っていくスタイルである。

今回、行きで利用したのは太平洋フェリー。

金がないので一番安い雑魚寝部屋を選んだ。早割を使うと名古屋港から北海道苫小牧まで二泊三日5,800円で行けるのだ。しかもフェリーには大浴場、レストラン、売店が揃っている。

下調べで「カップ麺の持ち込みは禁止されている」との情報を得ていたのだが、受付カウンターで私の前に並んでいた男性の手には各種カップ麺が入った袋が握られていた。

(おいおい兄ちゃん知らないのか~?そいつぁここではご法度なんだぜ~?)

ビニール袋を盗み見る。カップ麺、カップ焼きそば、カップうどん。カレー味、シーフード味、旨塩味。ちゃんと全部違う種類がセレクトされている。あらやだ可愛い。

結論から言えば厳密なカップ麺取締法はなく、船内カップ麵禁止というより船内の特定の場所で食べることが禁止されているらしい。乗船中麺を啜っている人をちらほら見かけた。

受付で搭乗券をゲットし、いざ参らん。

初日は、売店にあった文庫本を何故か無料貸し出し用の本だと勘違いして乗船早々万引き未遂を犯した以外は何事もなく終わった。

たまにあるじゃん旅館とかでご自由にお読みくださいみたいな本。それそれ。いや、うん、まあそれじゃなかったんだけど。

 

翌日。海の上で迎える朝。

窓から外を見るとそこには青い空、白い雲、そして早朝の甲板を一直線に駆けていく一人のおっさん

朝一で吸う海の空気はさぞ気持ちよかろうと私も甲板に出ることにした。甲板に繋がるドアを開くと目の前に広がるのは素晴らしい景色。

と、船体の陰で息を潜めているさっきのおっさん

 

おっさん

 

ねえ何なのさっきから!

しかしこの後、私も彼と同じ道を辿ることになるのだった。甲板に一歩踏み出した瞬間、もの凄い風圧が私にぶつかってきたのだ。

その時点でやめておけばよかったものの、「あの手すりから海を見たい」という謎の強い意志が生まれてしまった。人は好奇心には勝てない。

一歩進む度に服はめくれ、背中は押され、暴れまわる髪が顔をビシバシ叩き、鋭い風が目に入る。油断すると両足ともに浮き上がってしまいそうだ。

おっとっと…とととととと!!!!

意図せず小走りになる。自分の足を制御できずスピードがつく。横からくる風のせいでまっすぐ進めず、目的ポイントを大きく逸れてしまう。

脳裏をよぎるさっきのおっさん。朝の海にテンションが上がり甲板を走り回っていたわけではなかったのだ。彼は、走らざるを得なかったのである。

そしてこの甲板、水たまりというトラップが至る所に仕掛けてありかなり危ない。小柄な私が、この強風の中滑って転んだらもうあとは飛んでいくだけ。

やっとの思いで海に面する手すりに摑まる。

薄々気付いていた。手すりから見える景色は船内から見える景色と変わらないと。

さて、どうしたものか。

風に進行方向を邪魔されたせいで先ほど出てきたドアは遠くなり、戻るには向かい風が強すぎる。いっそのこと風に押されるがまま前進しようか。

そうして進行方向に船内に戻れるドアがないか探しつつ、甲板上を…走る。強風に背を押され走ったことがあるかい?一体私は朝から何をしているんだ。馬鹿らしくて笑ってしまう。

ああ、船内の窓からこっちを見ている人がいる…早朝の甲板をヘラヘラ笑いながらかけていく小柄なおばさんを見た時、人は何を思うのだろう。

船体の一部が大きく出っ張り、風よけになっている場所があった。滑り込み、呼吸を整える。甲板の隅で息を潜めていたおっさんが蘇る。今のところ全く同じルートを辿っている。

しかし寒い。風が強い。また誰か甲板に出てきた。軽く助走をつけ始めたその人を横目に、私も気合を入れ直す。

 

やっとの思いで船内に戻れた頃には息が上がっていた。服は乱れ髪はボサボサ。髪に関していえば分け目は消え、手櫛すら通らぬ状態。逆にあの強風の中でよく私の頭から離れずしがみついていてくれたものだと感心した。

その後、まるで湯浅弁護士のようになってしまった頭を整え読書をするためラウンジに。

たまたま甲板への出入り口が近いテーブルでくつろいでいたのだが驚いた。

甲板から船内に戻ってくる乗客がもれなく全員湯浅弁護士に変貌を遂げていたのだ。

その中には昨日カップ麵を大量にぶら下げていた男性も。(お前も走っとったんかーい)と突っ込まずにはいられないのであった。

 

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