30歳超えても、押せるボタンは全部押すよね

飛行機に乗った。

「乗りたい飛行機がある!!!!」という彼に全ての手配を任せ、全く頭を働かせることなく空港へ行き、言われるがままに搭乗ゲートへ進むと、事前に用意されたチケットを見せる。

機内に入ると、それまで飛行機が見える全てのポイントで立ち止まりシャッターを切っていた彼のテンションは最高潮に。笑顔100%。

 

全く。男っつーのはたかが飛行機でこうもはしゃげるのk…

す、すげええええええええ!!!!

なんじゃこの席は!!!!!!!!!なんだこの金持ちの座るシートは!!!!

え、ここ?ここにあたいも座っていいの?カップ麺の汁を翌日まで繰り越して飲むあたいが?!

今回乗ったのはJALのSKY SUITEⅢというビジネスクラス席。

搭乗前に彼が色々説明してくれたのだがよく分からず、唯一記憶に残っている情報が「追加料金がたった1000円」だった。追加料金が安いことについても説明してくれたのだがよく分からず、唯一記憶に残っている情報は「追加料金は1,000円」ということだった。なんも分かんねえなこの女。

そしてここからテンションぶち上げ大興奮。

仕切りが高くてほぼ個室。こんな飛行機乗ったことない!広い!快適!

感動して機内の写真を撮りまくっていると客室乗務員のお姉さんがやってきて「お客様、大変申し訳ございませんが」と言い始める。注意されるのかと思ったら、「お手荷物は上の収納棚にお入れください」とのこと。

なんだそんなことか、と思うも自分のシートベルトがなかなか外れずお姉さんにやってもらう。なんもできねえなこの女。

さあ引き続き金持ち席を堪能しようではないか。

なんだこれは…腰のクッションが膨らむ!?

待ってこのボタンは何?え!?倒れる!?リクライニングチェアSUGEEEEEEEE

あたあたあたあたしこんなの初めて…!!!!

しかも背もたれを倒すと同時に、足元のシートが前に出てシートがゆっくり水平になる。

こうなってくるともう気になるのは「この背もたれは一体どこまで倒れるのか」一択。

ボタンを押し続ける。静かに倒れていく私。おお、ゆっくりだがどんどん倒れていく…。これは完全にフラットや。180度や。いや、頭が足より低い位置にある気がする。ってことはこのままいくとエビぞりになるんか?

いやそんなことはない。さすがに止まる。止まった。

その時、乗客が横を通り過ぎた。まだ離陸してもいない飛行機の中、既に就寝体勢完了の女の横を乗客が通り過ぎた。やだ恥ずかしい。早くシートを戻さないと。

ボタンを押す。遅い。もとの位置に戻るのめっちゃ時間かかる。頼む誰も来ないで。

我に返り少し顔を赤らめる私はゆっくり、非常にゆっくり起き上がった。いやいや焦った。興奮しすぎて他の乗客の事何も考えてなかった。

起き上がると横の席にさっきはいなかったおじさんが座っていた。誰もいないと思っていた座席から突如スローで、しかも下から登場した私に少なからず驚いていた。

その後も引き続きあらゆるボタンを押し、無駄に簡易テーブルを出したりしまったりしていたのだが離陸の時が来た。

客室乗務員が乗客チェックに回る。「お客様」私の横で止まる。またか。今度はなんだ。

「リクライニングシートを完全にお戻しいただけますか」

どうやらシートの傾きを完全に戻し切れていなかったらしい。いやいやお恥ずかしい。至急戻しますね。と思うも色々なボタンを押しまくっていたせいで一瞬思考停止になる。どのボタンだっけ。するとそれを察して優しい客室乗務員のお姉さんがリクライニングチェアの「倒す」ボタンを押してくれた。

ゆっくり倒れていく私。

…だよね?

お姉さん今「座席倒すボタン」押したもんね?

「!?」となったお姉さんが慌てて「大変申し訳ございません!!」と謝り「戻す」ボタンを押す。

反射的に私も「いや、こっちこそ申し訳ないです!」と謝る。謝りながらゆっくり起き上がる。辱めを受けている。

こうして出発前から色々と恥ずかしい気持ちになりながらも快適な空の旅を楽しんだのであった。

おしまい

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