地面を転がるサッカーボール、顔面ではじき返したことある?

私は驚異的な運動神経と勘の悪さで数々のボールを顔面で受け止めてきた。

―――小学生、ドッヂボール―――
休み時間。
コート内で逃げ惑い隅に固まる女子を見て、ここにいたら狙われると感じた私。女子の群れから飛び出した瞬間、男子めがけて投げられた本気のボールに自ら当たりに行く形で突進し、自爆。クラスメイトの「あいつどっから現れたんや」「何しに出てきたんや」の視線を一斉に浴び保健室へ。


―――中学生、野球ボール――――
放課後。
グラウンドにあるベンチに腰掛け友達とお喋りしていたところに野球部のボールが飛んでくる。緩やかな放物線を描いて飛んでくる。緩やかに。落ちてくる。ここに落ちてk
気づくと顎から流血していた。友人「なんで避けないの!?なんで見てたの!?!?」


―――高校生、バスケットボール――――
体育の授業。ボールに対する恐怖心極まれり。
パスが回ってくるとパニックになり、両手でボールを持ったまま走るという奇行に出る。真剣そのものだったが、体育教師には私がふざけているように見えた模様。
普通に怒られしょんぼりしてゲームに復帰した直後、自らのドリブルで跳ね上がってきたボールにアッパーをくらう。

といった具合にまあどんくさいのなんの。

自慢ではないが体力測定のハンドボール投げでは、ボールの飛距離が10メートルに満たず学年で唯一の測定不可能という記録を持っている。

ちなみにこの体力測定には反復横跳びの種目があった。3本のラインを制限時間内に何回サイドステップで跨ぐことができるか、というあれだ。 2人1組となりペアの記録(サイドステップした数)を数えるのだが私は相手が必死に跳んでいる時(1、2、3、1、2、3、)といった具合にひたすら三拍子を刻んでいたことがある。

ネットで検索すると女子中学生の反復横跳びの平均回数は20秒間で42回らしい。

かなしいかな私のペアになった子は20秒かけて3回という記録になる。

流石に途中でおかしいことに気付いたので、先生に報告するときは怪しまれない程度に他の生徒の記録の平均回数を伝えておいた。

この他にも運動音痴と反射神経の悪さが祟ってダンスの授業で笑いものにされたり、ケーキ屋のバイトで足を3針縫う怪我をしたり、職場の階段から転げ落ちたり、酷い人生だった。人間、運動はできたほうがいい。

 

小学生の時、運動音痴×どんくささ×タイミングという全方向の悪運を一気に引き当てたことがある。

地面を猛スピードで転がるボールが私の顔面に直撃したのだ。「地面を転がるボール」がなぜ顔面に当たるのか。私はなにもグラウンドに寝ころんでいたのではない。あの状況を説明すると、私は浮いていた、というのが的確かもしれない。

昼休みだった。

私は友達と鉄棒をしていた。友達と横並びで「こうもり」をしていた。こうもりとは鉄棒に両ひざをかけ、コウモリのように逆さにぶら下がるという技だ。

現役で女児をやらせてもらっていた時代、昼休みに友達のななちゃんとコウモリをするのが日課だった。小学生というのは不思議なもので、昼休みを使って鉄棒にぶら下がりに行くという行為に何の違和感も抱かなかった。むしろななちゃんとぶら下がりに行くことは昼休みにやらなければならないことだったし、なんなら「さ、今日もやるか」くらいのテンションでもあった。

私たちが遊んでいた鉄棒は低いもので、コウモリになると地面が頭につくかつかないかだった。コウモリ中、いつも特に会話は無かった。無言で。真顔で。頭に血を登らせながらゆっくり時間が過ぎていく。

そして―――。

蹴られたてほやほや、威勢のいいサッカーボールが突如私の視界に現れた。

コウモリ中の私に逃げ場はない。

慌てて起き上がろうとすると、顔面でボールをはじき返すことになるし極限まで後ろにエビぞりしてボールをすり抜けさせるなんて大道芸はできない。

突き指すると思い、手を出すこともできなかった。顔面にボールが衝突するより、突き指を恐れたのだ。

 

そこで結局どうしたか。

 

なにもしなかった。

 

バチーーン。と音がしてボールは少し跳ね返った。痛かった。

ななちゃんはやっぱり無言だった。
私も無言だった。


小学生というのは不思議なもので、その後も私とななちゃんは何にも話さず昼休みは終わった。サッカーボールを蹴った少年が私の衝撃的なシーンを見ていたかは分からない。その少年も無言で近づいてきて、ボールを手に取ると無言で去っていった。


私は怒らなかった。

ただ、小学生にして(こういうパターンもあるのか)と悟った。

その後も冒頭で述べたようにボールは顔面に当たり続けた。

 

コメント